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2017-10-12

『「やりたいこと」は憧れの中にはない。現実から自分で見つけていくもの』

「ここはわたしがいるところじゃない。どこかに、もっとやりがいがあって、楽しい仕事があるはず」そう思いながら、自分が何をしたいのかわからず、2年間悶々としていた。
けれど、「漠然とした憧れの中ではなくて、現実にある仕事や生活での試行錯誤の中にこそ、やりがいや、楽しさのヒントがある」と気づいた。

「やりたいことを見つけたいと思いながら、日々をなんとなく過ごしている」
「今の仕事が嫌になってきて転職を考えているけど、次に何をするのか見えていない」
そんな人の参考になれば嬉しい。

■“ここではないどこか”を求め続けた2年間

カーテンを開けると、一気に部屋の中が明るくなる。
花の水を替え、好きなアーティストのCDをかける。
窓から冷たい秋の空気が入ってきて、ガタンガタンゴトン、ガタンガタンゴトン…と電車の音がする。

今日の仕事は午後から。ゆったりとした朝。なんとなく、気分が良い。
けれど、10か月前は、何をする気も起きないほど、心も身体も弱っていた。

わたしは都内の有料老人ホームで介護職として働いている。
入社2年目の今年の1月までは、“ここではないどこか”に、もっとやりがいのある仕事を見つけて、早くここを離れたい、と思い続けていた。

もともと、介護の仕事に興味はなかった。総合職になって経験を積み、数年で退職して、学生の時から関心のある福祉関係の社会問題に取り組む。バリバリ働き、社会的な名声や、地位を得ている女性に憧れて、そんなキャリアを描いていた。

仕事を始めてみたら、お客様に喜んでいただくことは嬉しかったけれど、楽しい、ワクワクすると感じたことは1度もなかった。
決められた仕事を淡々とこなす日々から抜け出したい、と思う一方で、「総合職になって何をしたいのか」と問われると答えることができなかった。

去年の夏から、自分がやりたいことは何か、一から模索することにしたが、その手がかりをつかめないまま、職場でのトラブルと体調不良が重なった。何でも悪い方向に考え、些細なことでイライラする。自宅では家事をするのも億劫になった。
大学の先輩が突然病気で亡くなって、私もいつ死ぬかわからないと思ったことが決定打になり、年末、とうとう仕事を辞めようと決意した。

■どん底で自分と向き合う

結局、私は退職しなかった。
きっかけは、知人のアドバイスだ。
「あれが嫌だ、これが嫌だと言って辞めていたら、土台もなく転職を繰り返すだけの人になっちゃうよ。今のフィールドでやりきってみたら、次が見える。今の仕事でやりきった感、ある?」
…………ない。
でも、仕事を続ける気持ちも体力も、限界なのだ。言われたことを認めたくない気持ちと、受け入れようとする気持ちのせめぎ合いの中で、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。

そこで、手を動かすことにした。
ずっと、この仕事をしていることが恥ずかしい、仕事から学べることは何もないと思い込んでいたけれど、本当にそうだろうか?
やりきった感はないけれど、私は仕事を頑張ってこなかったということだろうか?
グルグル頭の中で悩むより、向き合って確かめたいと思った。

学生時代も含めた過去5年を振り返ってみた。5年間で始めたこと、やめたこと、楽しかったこと、つらかったこと。それらの経験から学んだこと。1か月かけて、A3サイズのスケッチブックに14ページ書き出した。

これが結構つらかった。心も身体も弱っている状態で、逃げ出したい気持ちと闘いながらの作業は根気が必要だった。今思うと、乗り切れたのは3つのポイントがあったからだ。

①安心できる場所を確保する
わたしの場合は実家だった。自分を安心してさらけ出し、心も身体も休める場所があったからこそ、自分を追い込むことがでたと思う。

②入ってくる情報を取捨選択する
Facebook、Twitterなどで、どうしても目につくのが、自分ができていないことをやっている人のことだ。勝手に比較して、落ち込んで、ペースが乱れるのを避けるため、わたしは極力スマホを触らないように、実家でも通勤途中でも、本を読むようにした。

③自分を楽しませ、リラックスさせてバランスを取る
振り返り作業が大変であればあるほど、自分を甘やかした。カフェへ行ってみる、夜はお風呂に入って温まる、読んだことのないジャンルの本や詩を読む、興味のある個展に行ってみる、など。それが、自分が楽しいと思うこと、心地よいと思うことのヒントにもなった。

■やりきれていない自分を認めて、やりきると決意

5年間を振り返ってみて、一番の発見は、大学3年間よりも、社会人2年間の方が学んだことが多かったということだ。仕事を頑張ってきた自分と、経験から得たものを確かめることができた。

だからこそ、わたしはやりきれていない、と認めることもできたのだと思う。知人のアドバイスが、すとん、と胸に落ちたのは、茨木のり子さんの「知」という詩を読んでからだ。


 知

H2Oという記号を覚えているからといって
水の性格 本質を知っていることにはならないのだ

仏教の渡来は一二一二年と暗記して
日本の一二〇〇年代をすっかり解ったようなつもり

人のさびしさも 悔恨も 頭ではわかる
その人に特有の怒髪も 切歯扼腕も 目にはみえる

しかし我が惑乱として密着できてはいないのだ
知らないに等しかろう

他の人にとっては さわれもしない
どこから湧くともしれぬ私の寂寥もまた

それらを一挙に埋めるには 想像力をばたつかせるよりないのだろうが
この翼とて 手入れのわりには
強くなったとも しなやかになったとも 言いきれぬ

やたらに
わかった わかった わかった と叫ぶ仁
わたしのわかったと言い得るものは何と何と何であろう

不惑をすぎて 愕然となる
持てる知識の曖昧さ いい加減さ 身の浮薄!
ようやく九九を覚えたばかりの
わたしの幼時にそっくりな甥に
それらしきこと伝えたいと ふりかえりながら
言葉 はた と躓き 黙りこむ

(茨木のり子著「茨木のり子詩集 落ちこぼれ」より)


ああ、この2年、わたしはただ、同じ作業をうまくやる方法、何事もなく日々をやりすごす方法ばかりを身に着けていたのかもしれない。
今、自分が何をしているのか、知りたい。

そう思ったら、覚悟が決まった。
来年3月までの1年間、仕事をやりきってみる。同じことを毎回繰り返すのではなくて、自分が提供するサービスの価値を高める。

それから、たくさんの良い変化があった。
中でも、わたしに大きな影響を与えたのは、ホームに配属された新卒の育成プロジェクトの仕事だ。

人に教えるのは向いていないと思っていたけれど、やってみたら、初めて仕事が楽しいと感じた。新卒の配属前には、終電前まで残業し、休日出勤までして準備した。
がむしゃらに働く姿を見て、上司や先輩からは「生き生きしている」と言われた。

うまくいかないこと、頭を抱えることもあるけれど、就職してから、今が一番充実している。たとえ、育成プロジェクトが失敗したとしても、やるだけのことはやったと、そう言えるように、あと半年頑張りたい。

わたしはもう、“ここではないどこか”の幸せを求めることはなくなった。わたし自身の仕事や生活のある“今ここ”が、幸せに近づくための実験場だと思うようになったからだ。

嫌なことも、違和感も、しんどいことも、嬉しいことも、楽しかったことも、自分を知る手がかりだ。失敗したら改善すればいい、成功したらまた次に活かせばいい。仮説と検証を積み重ねることで、少しずつ、自分にとって良い選択ができるようになり、人生をより良い方向に近づけていける、と思っている。

■最後に


「やりたいことを見つけたいと思いながら、日々をなんとなく過ごしている」
「今の仕事が嫌になってきて転職を考えているけれど、次が見えていない」

そんな人は是非、期限を決めて、何か一つ全力でやりきってみてほしい。
もし、そんな気も起きない状態なら、まずは自分が仕事で学んだことを振り返ってみるとよい。得たものと、得られていないもの、両方が見えてくる。

やりきることは、どんなことでもよい。向いていないと思うことでも、前々からちょっとやりたいと思っていたことでも。
たとえ、失敗しても、成功しても、意外と楽しくても、やっぱりつまらなくても、その経験から得た結果こそが次のステップへのヒントになる。そのヒントを集めていくことが、あなたが求めるやりがいや、楽しさに少しずつ、つながっていくから。

 

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fumi
20代。介護職。最近のテーマは、自分に合ったペースで、いかに一日を気持ちよく過ごすか。生活の中に音楽を取り入れたくて、CDプレイヤーを買った。
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