【report】まわるつむぐ。消さない世界。~五日市の至福な工房体験~

まわるつむぐ。消さない世界。

~五日市の至福な工房体験~

良質な体験をすると、自分の願っていたものがはっきりと分かることがあります。
そうだ、自分はこういうものを願っていたんだ!という世界がすでに存在していて、目の前に立ち現れるよろこび。

自分にとって良いものがくっきりするので、実はあまり好きではなかったな、というものが対比でよく見えるようになり、なんだか、それまでよりも、世界がより立体的に、明るく見えるように。

先日、武蔵五日市の体験茶やさんで、なんとも至福な工房体験をしてきました。

■消す世界

最近、私はテニス中継を観るのが好きで。
いろんな国で華やかに開催される試合。現地の人たちが思い思いに楽しんでいて、観ているだけでちょっと海外旅行気分が楽しめます。
でも、先日全米オープンを観ていたら、ちょっと恐くなってしまったんです。

2万人以上収容できる巨大なスタジアム、華やかなショーの後に、大量のスポットライトとBGMに彩られて選手入場。真剣勝負に観客は大盛り上がり、手に汗握るシーソーゲームの末に、渾身のエース!
少しの余韻のあとに、また次の選手たちが入場し、まぶしいライトの下、白熱の試合を繰り広げ‥‥。

ああ。なんか、アスリートでさえ消費されちゃうんだな‥と感じてしまいました。

でも、この飽食で流れていく感じ、スポーツ界に限ったことではなく、私たちの日常、日々の衣食住やお仕事現場や‥いろんなところに、さりげなく我が物顔で居ますよね。
わかりやすい例でいうと、なんとなくTVを見ながら、適当にお菓子を食べ続ける。仕事でストレスをためすぎて、爆買いをする‥。自分を消費しすぎると、過消費に走る傾向はありそうです。

ちょっとぼんやりしていると、ものも時間も、どんどん流れて消えていく世界。
自分を通り過ぎるぼんやりしたものに囲まれていると、灰色の虚空に浮遊しているような、心もとない感じになってきて。

おおげさじゃなく、あれ?なんのために生きてるんだっけ??という、現代人の不安感の原因のひとつになっていると思います。消費され続ける世界って。

■紡ぐ。

現代は消費がメインの世界になっているけど、ちゃんと骨太に作って、つないでくれている人たちも、ありがたいことに居るんですよね。

そんな素敵な場所のひとつ、五日市体験茶やさん。
林業・泥染め・紙漉きなど五日市の伝統工芸をじっくり体験し、地物のランチをいただいて、最後は温泉でゆっくり、の一日ツアーを開催されています。

今回私は、糸工房「森」さんでの絹のストールの泥染めと、ツアーを主催されている体験茶やさんでの木製ハンガー作りをさせていただきました。
はじめに糸工房「森」さんで、糸が紡がれていく様子を見られるのですが、もう、この体験から、とても深くて‥。

この3代続く絹糸工房では、日本では数台しか残っていない、古い木製の撚糸機を使っています。

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カタカタと、優しい音を立てながら回る歯車たち。

優しい職人の森さんが、「ここと、ここの歯車は機嫌がわるいんだよね~」とニコニコしながら、時に優しく、時に勢いよく糸を手繰り、古い機械と一心同体になって紡いでゆく姿。
清流沿いの古い工房に、今まさに紡がれていくおかいこさんからの恵みが、清々しく光っていました。

思えば、「糸」に対してのイメージも、どこか曖昧で、浮いたものでした。
洋服から飛び出ていたり、裁縫箱の隅になんとなくあるような。
それなのに、随分と気楽に、適当なイメージで言葉を使っていたなあと。
「緊張の糸が切れる」「記憶の糸をたぐる」「愛憎の糸がもつれる」などなど。

実際に、糸を紡いでいく作業中は、常にちょうど良いテンションで糸を張っていられるよう、細心の注意と、熟練の手業が必要なのだそうです。
ゆるければしっかりとした糸にならないし、きつすぎて切れてしまったら、ぐちゃぐちゃになって作業はご破算に。

その緊張感と糸への愛情、積み重ねた技術、自然からの恵み‥すべてが一気により合わさって一本の糸になっていく現場を目撃したことで、「糸」のイメージが、急に体を突き抜けるようにドーンと実体を持ちました。

■つないでいく世界

そんな素敵なお仕事をされている森さんには、一度完全に途絶えてしまった五日市の泥染め「黒八丈」を復活させて、つないでいる黒八丈職人のお顔もあります。

天然染料で何度も染め重ねる、実に深みのある黒色の黒八丈。
江戸時代には隆盛を極めたものの、化学染料の台頭ですっかり姿を消し、わずかに地元の文献に残るのみになっており。
まさに一からの復活で、染料のヤシャブシ(小さなまつぼっくりのようなもの)の収穫時期からなにから、何年も何年も試行錯誤したのち、やっと納得のいく深い黒色に染め上ったそうです。

そんなお話を楽しく聞きながら、染めの工程をシェアしていただくしあわせ。
ヤシャブシと泥で絹布を染め、めだかのいる清流で布を洗い‥。

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自然にあはあは笑っちゃう

本来は、物や文化をつくること、積み重ねてつないでいくこと、その過程こそ素晴らしい体験なのだな、と思い出せます。

ついつい、「ラクしてすぐにものができる!結果がでる!」ということが良いという考えに傾きがちになるので。
プロセスの楽しみをうばわれるって、実はとても残念なことなんだなと。

逆に、これだけ心を込めて、ひとつひとつの過程を楽しんでいけたら、どれだけ幸せな人生になるんだろうと。
とてもいいお顔をされている森さんを見ながら、そんな事を思いました。

■体験のちから

この日は、こんな至福な、つながっていく世界の一部に、短時間でもがし!とはまれる体験をたくさんさせていただきました。

糸工房の後には、体験茶やさんでの木製ハンガー作りも。
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五日市の古民家を改築した、とても居心地のいい空間。

体験茶やさんでのツアーは、林業がすたれて荒れ始めた日本の山を復活させたい!木の良さを伝えたい!というコンセプトの会社Tree to Greenさんが運営されており、なるほど、良きものを見出して、復活させてつないでいくぞ、という精神がそこここに感じられる、濃厚なツアーなわけだと納得しました。

ここまで土台ががっしりと組まれている、実力のあるツアーだからこそ、大変に魅力的で、日常の暮らし方について、もっと広げて生き方についてもちょっと考えてしまうような、いいきっかけになるのでしょう。

実際に体験したことは、文字どおり体にインプットされ、何かを選ぶ際のふとした指針になるなど、自分の生活に効いてきますし、単純に楽しかった!美味しかった!の記憶自体も、とてもありがたい財産になります。

皆さんも、よかったらぜひ体験してみてください。
ランチや温泉、山々も絶品でしたよ。

五日市体験茶やさんのHP:http://taikenchaya.com/


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HN:Sola-ri-no 理惠

グラフィックデザイナー。商品パッケージ、ショップカード、コンサートポスターなどの制作、各種ポストカード類の販売(floracionさま:http://floracion-fr.com/にて委託販売中)。
デザインとともに、女性たちがリラックスしながら生活の知恵をシェアできる「女神たちのサロン」を主催。

 

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